『体位変換の時間を2時間以上とした症例の検討』 日本褥瘡学会誌Vol.5

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『体位変換の時間を2時間以上とした症例の検討』 日本褥瘡学会誌Vol.5

2003.07.01

日本褥瘡学会誌 Vol.5
体位変換の時間を2時間以上とした症例の検討
中島房代(1N病棟婦長)、豊田恒良(医師、外科)

 

 

要旨

自力体位変換が出来ない危険因子のある患者16名に、体位変換の間隔を2時間以上とし、褥瘡発生の危険について検討した。全例二層式エアーマットを使用し、体位変換は左右側臥位と仰臥位とした。検討項目は、2時間4時間5時間後における骨突出部の皮膚発赤の有無と体圧の測定とした。また、発赤群と非発赤群とに分け、危険因子(病的骨突出、関節拘縮、栄養不全、皮膚湿潤、浮腫)と体圧値との関連をみた。この結果、4時間後までに発赤例はなく、5時間後には8例に発赤を認めた。発赤群は非発赤群に比べ、病的骨突出や栄養不良、浮腫のある患者が多く、体圧値が褥瘡発生危険値である40mmHg以上を示したのは1例であった。この結果より、二層式エアーマット使用下では同一体位4時間までは褥瘡発生の危険は少ないが、それ以上では危険因子を有する患者に、体圧値が危険値以下であっても褥瘡発生の危険があると考えられた。

 

 

はじめに

臥位時の褥瘡発生予防において、2時間ごとの体位変換は必須とされている。それは、70〜100 mmHgの圧力が2時間皮膚に加わると、圧力による組織損傷の徴候が現れると報告されているからである。しかし、これは過去の概念であり、最近は、褥瘡予防に関する研究が急速に進展し、優れた機能を持つ体圧分散寝具等が開発され、患者の安眠障害の原因ともなる体位変換についても考え直されてきた。実際、自力体位変換ができない患者の介護に、昼夜を問わず2時間おきに体位変換を実施することは、家族介護者の大きな負担となり、また、それが病院や施設からの在宅介護復帰へのネックともなっている。しかし、現状の介護保険サービスだけでは解決できる問題ではない。病院や施設においても、褥瘡予防は2002年の診療報酬改定で褥瘡対策として評価されることとなり、なお、一層の努力が求められている。しかし、施設では患者介護度の上昇と反比例して、マンパワーは慢性的に不足しており、体位変換の実行にも支障を来たしているのが現状である。そこで、上記問題を解決する目的でこの研究を施行した。研究は、二層式エアーマット使用患者に対し体位変換の間隔を2時間以上とし、褥瘡発生の危険につき検討した。

 

 

対象と方法

1.対象

対象は、介護療養型医療施設に2002年4月時点で入院していた患者16名である。性別は男性3名、女性13名、年齢は55〜100歳、平均年齢85.3±11.3歳であった。ブレーデンスケールは7〜10点、平均得点8.5±0.9点であった。体重は29〜57Kgであった。介護度は全例要介護5であり、日常生活自立度(寝たきり度)は、全例自力で寝返りもうてないランクC-2であった。なお、この研究の趣旨は本人もしくは家族に説明し同意を得た。

2.方法

全症例に体圧分散寝具として、二層式エアーマットレス(トライセル、ケープ社)を使用。体位変換は左右30度側臥位と仰臥位とし、その間隔は最長5時間とした。なお、今回の研究は夜間就寝時を想定したのでギャチアップは実施しなかった。

検討項目は同一体位で、2時間後、4時間後、5時間後の骨突出部の皮膚を観察し発赤の有無を確認した。発赤の判定は、圧迫されていない皮膚より明らかに赤いと肉眼的に診断した。なお、発赤が確認された場合は、その時点で同一体位を中止する事とした。また、マルチパッド型簡易体圧測定器(セロ、ケープ社)を使用し、各時間に体圧測定を実施した。測定部位は仰臥位で仙骨部、側臥位では大転子部とした。なお、測定に際してはマイナーチェンジの恐れがあるので、体を浮かせないように注意しセンサーを入れた。そして各時間に3回測定し平均値をとった。全症例は、何らかの危険因子、・病的骨突出(大浦の分類で評価)・関節拘縮・栄養状態の低下(血清アルブミン3.0g/dl未満、ヘモグロビン11.0g/dl未満、血清コレステロール160mg/dl未満)・皮膚湿潤(ブレーデンスケールで評価)・浮腫を有しており、皮膚発赤群と非発赤群とに分け、危険因子と体圧値との関連を検討した。

 

 

 

結  果

1.仙骨部の体圧時間的変化と皮膚発赤

16例の仙骨部体圧値(平均値±標準偏差)は、2時間値25.4±5.2mmHg、4時間値29.3±4.3mmHg、5時間値32.7±4.9mmHgであった。皮膚発赤は4時間までは認めなかったが5時間で6例に認めた(図1)。発赤を認めたのは、高い体圧が持続したと考えられる症例に多かったが、低い体圧に留まっていたと推測される症例にも発赤を認めた。

2.右大転子部の体圧時間的変化と皮膚発赤

16例の右大転子部平均体圧値は、2時間値21.9±5.2mmHg、4時間値25.4±5.4mmHg,5時間値28.6±5.0mmHgであり、皮膚発赤は5時間で1例に認めた(図2)。いずれの時間においても仙骨部より低値であった。

3.左大転子部の体圧時間的変化と皮膚発赤

16例の左大転子部平均体圧値は、2時間値23.5±3.4mmHg、4時間値26.6±3.6mmHg、5時間値29.1±3.9mmHgであった。皮膚発赤は5時間で1例に認めた(図3)。いずれの時間においても仙骨部より低値であった。

4.皮膚発赤症例の危険因子と体圧値の関連

皮膚発赤が5時間後に観察された8例の危険因子は、全例に褥瘡の既往(瘢痕組織の有無で評価)と皮膚湿潤を、7例に骨突出、関節拘縮、栄養不良を、6例に浮腫を認めた。8例の発赤時の体圧平均値は34.4±4.6mmHgであった。体圧が28mmHgとランディスの定める褥瘡発生危険値である32mmHgに満たなかった2症例は、他症例より骨突出と栄養不良が顕著であった(表1)。

5.皮膚非発赤症例の危険因子と体圧値の関連

皮膚発赤が観察されなかった8例の危険因子は、7例に関節拘縮と皮膚湿潤が認められたが、発赤症例に多数認められた褥瘡の既往、骨突出、栄養不良は1例に認めるのみであった。8例の最高体圧平均値は33.5±4.4mmHgであり、8例中4例の最高体圧値が32mmHg以上であった(表2)。

 

 

考 察

褥瘡予防のケアは、危険因子である「自力体位変換ができない」「病的骨突出がある」「関節拘縮がある」の何れか一つでもある場合に実施され、その方法として体位変換と体圧分散寝具の使用とされている1)。体位変換は2時間ごとに左右30度側臥位と仰臥位、ギャチアップは30 度までとし、体圧分散寝具は危険因子から作成されたK式スケールをもとに選択するとされている2)。研究対象となった症例は、全例自力体位変換が出来ないことより、褥瘡予防ケアの対象となり、K式スケールによる体圧分散寝具の選択基準からエアーマットレスを選択した。エアーマットレスは、ギャチアップ対応二層式エアーマットレス(トライセル;ケープ社)を使用した。二層式エアーマットレスの体圧分散効果は、体圧値、褥瘡発生率からみても単層式エアーマットレスや標準マットレスよりも優れているとの報告がある3)。

大浦氏は、『在宅における褥瘡ケア・治療の問題点解決は』というテーマの座談会の中で「高機能タイプの体圧分散マットレスを使用すれば、普通なら2時間ごとに体位変換を行わなければならないが、3〜4時間はそのままにしておいても、それほど変化はしない」と述べている4)。この研究でも、同一体位4時間までは皮膚に発赤を認めた症例はなく、患者の身体状況に適合したマットレスを使用すれば2時間以上の体位変換も可能と考えられた。

体圧測定は、マルチパッド型簡易体圧測定器(セロ;ケープ社)を使用した。この器械の信頼性と妥当性の高さは須釜らにより報告され、この器械による褥瘡発生のカットオフ値(危険値)は40mmHgとされている5)。この研究において、16例中40mmHg以上の体圧値を示したのは、同一体位5時間後の仙骨部に皮膚発赤を認めた(体圧値:40.8mmHg)1例のみであった。しかし、体圧値が40mmHg以下であっても7例に皮膚発赤が認められた。褥瘡発生の原因は応力(圧縮応力、せん断応力、引張応力)とされている6)。この3つの応力が複雑に組み合わさって組織内の虚血状態を作り出し褥瘡を形成する。さらに応力に影響を与える要因として骨突出と皮膚湿潤(せん断応力を増大するとともに皮膚を浸軟させるので、皮膚の外力に対する抵抗力が弱まり、褥瘡になりやすくなると推測されている)があげられる。同一体位5時間後に皮膚発赤を認めた8例は、全例に皮膚湿潤を、7例に骨突出があり、骨突出が少なかった非発赤症例よりも強い応力(ズレの力)が加わっていたと推測され、それが体圧値40mmHg以下であっても皮膚発赤を認めた原因と考えられた。なお、この研究で全症例が時間経過とともに体圧が上昇した。これは、1.全症例布オムツを使用しており、排泄物によりオムツ自体が湿って硬くなり徐々に皮膚の圧迫が強まった。2.同一体位では下肢屈曲が徐々に強くなるため、骨突出部に体重が集中した。以上1と2の要因が同時に加わったためと推測された。

褥瘡発生において、応力を低下することが出来れば体位変換時間の間隔は延長できると考えられる。それには、体圧分散寝具による除圧のみではなく、「ズレの力」の排除も必要とされ、その点からもズレの可能性を高める頻繁な体位変換は、かえって褥瘡発生の危険に繋がるとも考えられる。よって、体位変換時間の設定は、患者の病状と危険因子の状況把握、体圧分散寝具の選択、介護力とを総合的に判断した上で実施すべきである。

中條は7)、体位変換を二つに分類し、一つは一般的な体全体を動かす大きな変換、もう一つは手や足の組み変え、顔の向きを変えるなど、部位だけを変換する「マイナーチェンジ」とに分け、その重要性を指摘している。マイナーチェンジにより、加圧されている臀部や背中にわずかながら圧の移動が起こり、血液循環も改善され褥瘡発生予防に役立つとしている。さらに、これは介護者一人で簡単に出来るので、定期的な体位変換に加えて行うことを推奨している。

また中條は、体位変換の意義を身体面と心理面の点から述べている。身体面では、内臓機能を正常に保ち、循環障害や肺炎、関節の拘縮と変形を予防でき、心理面では視界の変化が気分転換となり、同一体位による体の痛みやだるさから解放される喜び、さらに、介護者から受けるスキンシップにより疎外感が取り除かれるとしている。しかし、当病棟には自力体位変換出来ない患者が常時70%以上を占め、その体位変換を夜勤者二人で実行するには難しい。また、在宅介護でも介護者のみで2時間毎に体位変換を行うのは困難であり、実施されていないのが現状である。今後我々は、ブレーデンスケールと危険因子のデーターを考慮した上で、エアーマットによる体圧管理と骨突出部のポジショニングを工夫し、マイナーチェンジも加えることにより、さらに体位変換時間を延長出来るか検討予定である。

 

 

 

まとめ

体位変換時間が、同一体位で4時間までなら皮膚発赤は認めなかったが、5時間後には16例中8例に発赤を認めた。皮膚発赤群は非発赤群に比べ、危険因子の中でも病的骨突出、栄養不良、浮腫を認めた患者が多かった。しかし体圧値が褥瘡発生危険値である40mmHg以上を示したのは8例中1例のみであった。

この結果より、二層式エアーマット使用下では同一体位4時間までは褥瘡発生の危険は少ないが、それ以上では危険因子有する患者に、体圧値が危険値以下であっても褥瘡発生の危険があると考えられた。

稿を終えるにあたりご指導を頂きました医療法人光ケ丘病院笠島眞副院長、金沢大学医学部保健学科真田弘美先生に深謝いたします。なお、本稿の要旨は第4回日本褥瘡学会学術集会(2002年8月31日,於金沢)において発表した。

 

 

 

文献

1)褥瘡対策の指針:27-29、2002 照林社

2)須釜淳子、北川敦子、真田弘美:臥位時の褥瘡予防技術、褥瘡患者の看護技術―最新の知識と看護のポイント、103-105、へるす出版、2002

3)松井優子、三宅繁美、河崎伴子、ほか:二層式エアセルマットレスの褥瘡予防における臨床実験研究.日本褥瘡学会誌、3(3):331-337、2001.

4)大浦武彦、宮林徹、沼田美幸:シリーズ褥瘡⑮   [座談会]在宅における褥瘡ケア・治療の問題点解決は.Home Care Medicine、3(6):30-36、メディカルトリビューン、東京、2002.

5)須釜淳子、真田弘美、中野直美ほか:褥瘡ケアにおけるマルチバッド型簡易体圧測定器の信頼性と妥当性の検討;日本褥瘡学会誌、2(3):310-315、2000.

6)大浦武彦:褥瘡とは;寝たきりの予防と治療、褥瘡患者の看護技術―最新の知識と看護のポイント、11-12、へるす出版、2002.

7)中条俊夫:ケープハート14号、2002.

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